動画のクオリティを語るとき、映像の美しさに注目しがちだが、実は視聴者の離脱率に大きく影響するのは「音声」だ。映像が少し粗くても視聴者は見続けてくれるが、音声にノイズが入っていたり聞き取りにくかったりすると、一気に離脱してしまう。
動画編集における音声編集は、ノイズ除去、音量調整、EQ(イコライザー)設定の3つが基本だ。この3つを適切に行うだけで、音声のクオリティは格段に向上する。
この記事では、動画編集初心者でも実践できる音声編集のやり方を、具体的な手順と数値の目安を交えて解説していく。

音声編集の基本ワークフロー
音声編集は以下の順番で行うのが効率的だ。この順序を守ることで、各処理が互いに干渉しにくくなる。
- 不要部分のカット:言い間違い、無音部分、「えーと」「あの」といったフィラーワードを除去する
- ノイズ除去:背景ノイズやハムノイズなどの不要な音を取り除く
- EQ(イコライザー):特定の周波数帯域をカット・ブーストして声の聞こえ方を改善する
- コンプレッサー:音量のばらつきを均一化する
- 音量調整:最終的な音量レベルを適正な値に設定する
- BGM・効果音の追加とバランス調整:BGMとのミックスバランスを整える
この順番が大切なのは、たとえばノイズ除去前にコンプレッサーをかけると、ノイズまで持ち上げてしまうからだ。「不要な音を消す→音質を整える→音量を揃える」の流れを意識しよう。
ノイズ除去のやり方
ノイズの種類
動画に混入するノイズには主に以下の種類がある。
- ホワイトノイズ(サーッという音):エアコンやPCファンの音、マイクのプリアンプノイズなど
- ハムノイズ(ブーンという低音):電源由来のノイズで、50Hz(東日本)または60Hz(西日本)とその倍音で発生する
- ポップノイズ(パッという破裂音):マイクに息が直接当たることで発生する
- クリッピング(音割れ):入力レベルが大きすぎてデジタル上限を超えた場合に発生する
このうちポップノイズは、編集で消そうとすると声まで削れてしまうやっかいなノイズだ。録音時にマイクの前へ一枚挟んでおくだけで済む話なので、収録が増えてきた段階で用意する人が多い。
Premiere Proでのノイズ除去
Premiere Proには「クロマノイズ除去」エフェクトが搭載されている。
- エフェクトパネルから「オーディオエフェクト」→「ノイズリダクション/レストレーション」→「クロマノイズ除去」を選択する
- ノイズ除去対象のオーディオクリップにドラッグ&ドロップする
- エフェクトコントロールパネルで「量」のスライダーを調整する(30〜50%程度から始めるのが目安)
- かけすぎると声が「水の中にいるような」不自然な響きになるため、適度に調整する
DaVinci Resolve(Fairlight)でのノイズ除去
DaVinci ResolveのFairlightページには、無料でプロレベルのノイズ除去ツールが搭載されている。
- Fairlightページに移動する
- ノイズ除去したいトラックのミキサーチャンネルで「ダイナミクス」を開く
- 「ノイズゲート」を使って、一定の音量以下の音(ノイズ)を自動的にカットする
- より高度なノイズ除去には、Fairlight FXの「ノイズリダクション」を使用する
外部ツールを使ったノイズ除去
より高精度なノイズ除去をしたい場合は、Adobe Auditionや、無料のAudacityを使う方法もある。Audacityの「ノイズリダクション」は、まずノイズだけの部分を選択して「ノイズプロファイルを取得」し、その後全体にノイズ除去を適用する2ステップ方式だ。

EQ(イコライザー)の基本設定
EQは、音声の特定の周波数帯域を増減させて、声の聞こえ方を改善するツールだ。人の声を聞きやすくするための基本的な設定を紹介する。
ハイパスフィルター(ローカット)
80〜100Hz以下の低域をカットする。この帯域にはエアコンの振動音やマイクの取り扱いノイズなど、不要な低音が含まれていることが多い。声の明瞭度を上げる第一歩として、ハイパスフィルターは必ず設定しよう。
200〜300Hz帯をやや削る
この帯域は「モコモコした響き」の原因になりやすい。室内で録音した音声はこの帯域が膨らみがちなので、2〜3dB程度カットするとスッキリした音になる。
2〜4kHz帯をやや持ち上げる
人間の耳が最も敏感に感じる帯域で、ここを1〜3dB程度ブーストすると声の存在感(プレゼンス)が増し、聞き取りやすくなる。
6kHz以上の高域
「シャリシャリ」した音や歯擦音(サ行の音が刺さる感じ)が気になる場合は、この帯域を少し下げる。逆に、声にキラキラした明るさを加えたい場合は、8〜12kHz付近をわずかに持ち上げる。
EQは「引き算」で考えるのが基本だ。気になる周波数を削る方向で調整するほうが、自然で破綻しにくい音になる。ブーストは最小限に留めよう。
もっとも、EQの効き具合はモニター環境に大きく左右される。ノートPCの内蔵スピーカーだと低域がほとんど聞こえないため、遮音性のあるモニターヘッドホンで確認しながら調整している人が多い。
音量調整の目安
動画の音量調整では、以下のような数値が一般的な目安とされている。
各トラックの音量目安
- ナレーション・トーク:-6dB〜-12dB(ピーク値)
- BGM:ナレーションの-20dB程度下(つまり-26dB〜-32dB程度)
- 効果音:BGMよりやや大きめ、ナレーションより小さめ(-15dB〜-20dB程度)
- 全体のラウドネス:YouTubeの推奨値は-14 LUFS(ラウドネスユニット)
コンプレッサーの使い方
コンプレッサーは、大きすぎる音を抑えて、音量のばらつきを均一化するツールだ。声の大きさが一定でない場合(叫んだり囁いたりする場面がある場合)に効果的だ。
- スレッショルド:-15dB〜-20dB程度(この値を超えた音が圧縮される)
- レシオ:3:1〜4:1程度(ナレーション向け)
- アタック:10〜20ms(声の立ち上がりを残す)
- リリース:100〜200ms
ここに挙げた数値はあくまで出発点で、素材や声質によって最適値は変わる。なぜその設定になるのかを理屈から押さえたい方は、動画の音まわりを扱った解説書を1冊手元に置いておくと迷いにくい。

主要ソフト別:音声編集の特徴
Premiere Pro
「エッセンシャルサウンド」パネルを使えば、「会話」「ミュージック」「効果音」「アンビエンス」のカテゴリーに分けて直感的にオーディオ調整ができる。「ラウドネスの自動一致」機能を使えば、クリップ間の音量差を自動で揃えてくれる。
DaVinci Resolve(Fairlight)
Fairlightページはプロレベルのオーディオ編集機能を無料で提供している。EQ、コンプレッサー、リミッター、ゲート、ディエッサーなどが一通り揃っており、無料ソフトとしては音声編集機能が最も充実している。
Filmora
AI機能を活用した「AIノイズ除去」が搭載されており、ワンクリックでノイズを除去できる。細かいEQ設定よりも、手軽さを重視する初心者向けだ。
CapCut
「ノイズ除去」ボタンをタップするだけで、AIが自動的にバックグラウンドノイズを除去してくれる。スマホで手軽に音声を整えたい場合に便利だ。
撮影時にできる音声品質の向上策
編集での音声補正には限界がある。撮影段階で音声品質を確保しておくことが、結果的に最も効率的だ。
特にマイクをPCへ直挿ししている場合は、ノイズが乗った状態で録れてしまうことが多い。間にオーディオインターフェースを挟むと入力レベルを手元で調整できるため、収録段階で整えたい方に選ばれている。
- 外付けマイクを使う:カメラやスマートフォンの内蔵マイクよりも、ピンマイクやショットガンマイクを使ったほうが格段に音質がよくなる
- 静かな環境で撮影する:エアコン、冷蔵庫、交通騒音などのノイズ源を可能な限り排除する
- マイクと口の距離を一定に保つ:距離が変わると音量がばらつくため、15〜20cm程度の距離をキープする
- 録音レベルを適正に設定する:入力レベルのピークが-12dB〜-6dB程度になるように設定し、音割れを防ぐ
- ポップフィルターを使う:破裂音(パ行、バ行)による風切り音を防止する
カメラの内蔵マイクから乗り換えるなら、話し手の方向だけを狙って拾うショットガンマイクが定番だ。カメラのシューに載せて使えるタイプなら、機材構成を大きく変えずに導入できる。
Q&A:音声編集に関するよくある質問
Q. 音割れした音声は修復できる?
軽微な音割れであれば、Adobe AuditionのDeClip機能やiZotope RXなどの専門ツールである程度修復できる。ただし、ひどい音割れは完全な修復が難しいため、撮影時に入力レベルを適正に設定して音割れを防ぐのが前提だ。
Q. ラウドネスとピーク値の違いは?
ピーク値は瞬間的な最大音量で、ラウドネスは人間の聴覚特性を考慮した「聞こえる音量の平均値」だ。YouTubeやテレビの音量基準はラウドネス(LUFS)で統一されており、ピーク値だけでは判断できない。
Q. 無料で使える音声編集ソフトは?
Audacity(オーダシティ)が無料の音声編集ソフトとして広く使われている。ノイズ除去、EQ、コンプレッサーなどの基本機能を備えており、動画編集ソフトでの音声処理では物足りない場合に併用するとよい。
まとめ
動画編集における音声編集は、「ノイズ除去→EQ→コンプレッサー→音量調整」の順で行うのが基本だ。ナレーションは-6dB〜-12dBを目安に、BGMはナレーションより20dB程度低く設定し、全体のラウドネスは-14 LUFSを目標にするとよい。
DaVinci ResolveのFairlightページは無料とは思えないほど高機能な音声編集ツールを備えており、コストをかけずにプロレベルの音声編集を学びたい方にはおすすめだ。
映像がどれだけきれいでも、音声が聞き取りにくければ視聴者は離れてしまう。まずはノイズ除去と音量調整の2つから始めて、徐々にEQやコンプレッサーにも挑戦していこう。
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